2013年7月5日金曜日

日本はアメリカに急速に追いつこうとしていた

日本はたしかに長年にわたって高率の経済成長をとげてきたが、いまでは、その成長神話も過去のものとなっている。最近でも、日本の成長率が他の先進国を上回ることは多いが、その差は以前よりはるかに小幅になり、しかも縮まっている。日本経済や、日本が世界経済で果たす役割について書かれた本は山ほどあるが、奇妙なことに、日本の成長率の減速についてはまったく触れていない。こうした本を読んでいると、一九六〇年代から七〇年代はじめにかけての成長神話の時代に、タイムースリップしたような気がする。たしかに、日本は九一年以来続いている深刻な不況からまもなく抜け出し(これを書いている時点では、景気はまだ底入れしていない)、短期的にはおそらく、力強い回復が見られるだろう。しかし、景気拡大が本格化しても、成長率は二〇年前の常  識的な予測をはるかに下回ることになろう。ここが重要な点である。

二〇年前と現在の日本の成長見通しをくらべてみるといい。一九七三年当時、日本は経済規模、生活水準ともアメリカをはるかに下回っていた。国内総生産(GDP)はアメリカの二七パーセント、一人当たりGDPは同五五パーセントにすぎなかった。しかし、日本の成長ペースを見ると、いずれ状況が一変すると思えた。それまでのI〇年間、日本の実質GDP成長率は年率八・九パーセント、一人当たり実質GDP成長率は同七・七パーセントだった。この間、アメリカも従来の基準から見れば高い成長率をあげているが、実質GDP成長率は三・九パーセント、一人当たり実質GDP成長率は二・七パーセントであり、日本とは比較にならない。二〇年前、たしかに日本はアメリカに急速に追いつこうとしていた。

それどころか、とうした傾向をそのまま将来に当てはめて考えれば、遠からず日米逆転が起こるはずであった。一九六三~七三年の成長率が続けば、日本は八五年には一人当たりGDPで、九八年にはGDPでアメリカを追い抜くはずだった。当時は、上れがまともな見通しだと思われていた。日本がいずれ世界経済の覇者になるという見方が主流であったことを思い起こそうとするなら、当時、話題になっていた本の題名を見るといい(ハーマンーカーンの『超大国日本の挑戦』、エズラーボーゲルの『ジャパンーアズーナンバーワン』などがある)。

しかし、少なくとも現在のところ、当時の予測どおりにはなっていない。日本経済の世界ランキングが上昇を続けていることは事実だが、二〇年前に予測されていた上昇ペースよりはるかに遅い。一九九二年には、日本のGDPはアメリカの四二パーセント、一人当たりGDPは同八三八-セントにとどまっている。これは、七三~九二年の成長率が高度成長期とくらべて、大幅に鈍化しているためである。この間の実質GDP成長率は年率三・七パーセント、一人当たり実質GDP成長率は同三パーセントにすぎない。アメリカも七三年以降、成長が鈍化しているが、これほど大きな落ち込みではない。

一九七三~九二年の成長率を将来に当てはめてみよう。それでもなお、日本はアメリカに追いつき、追い越すことになるが、以前ほど劇的ではない。一人当たりGDPでは二〇〇二年、GDPでは二〇四七年にアメリカを追い越す計算になる。しかし、日本ではこれより控えめな見通しが一般的だ。日本のエコノミストは、現在の日本経済の潜在成長力(不況時に使われなかった供給余力を使い切った後に維持できる成長率)を三パーセントと見ている。しかも、これはアメリカの二倍近い投資率を前提としている。