2015年9月14日月曜日

巨大金融資産の運用

巨大な金融資産の運用など成長が期待できる業務分野でも、外資は、なるべく格安で、怪しげな資産や生産性の低い従業員抜きで営業基盤を手に入れようとし、そのために、破綻もしくはその寸前の金融機関を狙っている。GEキャピタルによる東邦生命への出資や日本リースの買収、第百生命とカナダの生保マニュライフの提携、メリルリンチによる旧山一店舗網の取得などは典型的な例であろう。破綻寸前の買収でも、怪しげな資産や生産性の低い従業員をはずした別会社に出資して、そこへ健全な資産を移すやり方を外資は好む。

先にはスイス銀行と長信銀のケースをとりあげたが、日興証券へのシティーグループ(旧トラベラーズ)の投資も、今後の外資による大規模な投資のケースースタディとして興味深いものがある。大規模な投資は、日興の業況悪化と資金繰り急迫のタイミングをとらえて行われた。九八年四月にトラベラーズがシティコープとの世紀の合併を発表したその直後の六月、日興証券との資本・業務提携が発表され、八月に第三者割り当て増資と転換社債の割り当てで旧トラベラーズは約二二〇〇億円を出資、九九年三月には同グループとの合弁で、法人向け投資銀行業務を営む「日興・ソロモンースミスバーニー証券」が発足した。

注意深く振り返らなくてはならないのは、シティーグループが、新投資銀行の設立で法人顧客へ浸透する強力な拠点を実質手中にするとともに、リテールに特化する日興自体への投資でも賢明に立ち回ったことである。

目先の日興の株式や転換社債の投資利回りはたしかに低かった。しかし、割り当て増資は一株四三六円、転換価格は四四七円なので、提携発表一週間後には六〇〇円を超えた結果、たちまち巨額の含み益を獲得できた。もし日本での戦略を変えることが得策と判断すれば、シティーグループは、二〇〇二年八月にはこの株を処分して身軽になれるのである。

国有化されている長銀や日債銀に、どのような買い手がっくか。本書執筆時点では、アドバイザーに指名されたゴールドマンーサックスのお手並み拝見というところである。いずれにせよ、公的資金で不良債権を処理し、身綺麗になっただけでは、外資は食指を動かさず、その銀行がどのような収益を生む資産やフランチャイズをもっているのか、それが投資額に対して十分なリターンを生む見通しがあるのかどうか、を慎重に分析する。買い手を捜すアドバイザーに手を挙げた某外国投資銀行のスタッフは、「買い手は簡単には見っからない。日本の金融当局が、適正な値段で資産を処分できたという恰好をつけるのがアドバイザーの役目だ」 といっていた。