2015年8月19日水曜日

開放性結核の役割を果たす

胆嚢が最終的な保菌部位になることは、チフス菌の感染環形成に重要な意味がある。チフス菌が胆汁のみを栄養源にして増殖できることも関係しているのだろう。腸チフスでは、強い病後免疫が成立することが知られている。一方、患者の中には、保菌者になってしまう人がいる。患者でも、便の中にチフス菌が出てくるので感染源になるが、病後、保菌者にならなければ、その期間は比較的短いはずである。これに反して保菌状態になると、いつまでも便の中にチフス菌が出てくるから、チフス菌の感染環の保持には患者よりも保菌者のほうが重要な意味がある。チフス菌の保菌者は、ちょうど結核における開放性結核の役割を果たすことになる。

チフス菌は胆嚢における保菌状態を作るために、わざわざ全身に感染を広げるという、一見よけいなことをしているようにみえる。チフス菌は全身症状を起こさないで直接、胆嚢に感染することはないのかという疑問が浮かぶ。経口的に感染して胃を通過したチフス菌は、数量や解剖学的な理由で、胆汁の通る道を逆行して胆嚢に定着することはできないのかもしれない。またチフス菌のほかに、似たような症状を起こすパラチフス菌というものもある。ヒトに食中毒を起こすサルモネラの中のあるものは、ヒトにおける腸チフスに相当する病気を、ほかの動物に起こす病原体である。たとえばネズミチフス菌というサルモネラがある。さらに、そのほかの動物種に固有のサルモネラが存在する。サルモネラの場合に、それぞれの宿主種に適応したものがいるということは、宿主の種が分化していく過程で、お互いに違った宿主種に適応していったということだろう。