2015年7月15日水曜日

総量規制の発動

金融機関を通じての資金のフローを人為的に阻止する政策はきわめて強いインパクトを及ぼす。実際、総量規制の対象となった三業種では、あれほど潤沢であった流動性が急速に涸渇しだした。そして、資金繰りが苦しくなった不動産業者やノンパンクは、一転して不動産の購入に慎重となった。この上に、資金繰りのために不動産の換金売りが急増に転じた。こうした状況下では、不動産市況が暴落に転じるのは時間の問題でしかなくなった。

このように九〇年四月からの総量規制導入は、不動産市況の急落を引き起こした。そして、九一年に入ると、金融システムの安定性確保とい立面からも、ノンパンクや住専の経営状況の悪化が重大な問題になってきた。また住専が窮境に追い込まれるに至る過程では、総量規制の影響が大きかった。

総量規制の発動は、九〇年三月以降の三業種向け貸出の増加を完全に阻止することになった。実際、不動産業や建設業、ノンバンク向けの融資残高は、九〇年三月に比べ、その後は毎期フラットに抑制されてきた。こうした厳格な融資規制は、直接的には不動産業や建設業の資金繰り難平、悪くすると経営難までに結びつき、間接的には不動産市況の下落の加速要因となった。この状況下で、金融機関は融資先であるノンバンクや不動産業の資金繰り難などに対処するため、総量規制の対象外である住専や一部ノンバンクの融資増に強く依存することになった。

事実、これらの規制対象外ノンバンクや住専の、不動産業等や規制対象ノンパンクへの貸出が、金融機関を肩代わりする形で増勢を強めた。また、金融機関は規制対象外の一部ノンバンクや住専に対し、依然として積極的な融資姿勢を維持した。この時期に農林系統金融機関も住専に対し融資を著増させた。そして、これがほんの一~二年後に、金融システム全体を不安定化させかねない住専問題を惹起することになるとは、九〇年頃には思いもよらなかった。

しかしあれだけ巨額の資金が流れ込んだ後であるだけに、不動産市況の下落の度合いが深まるにつれて、総量規制対象外の一部ノンバンクや住専を経由した資金フローに膨張した不動産市場を支えきれるはずがなかった。そして、九一年末になり総量規制が解除される頃には、暴落し売るに売れない不動産が山積し、多くの不動産業者や建設業、ノンパンクは極度の経営不振に陥り、目を被いたくなるくらいの惨愉たる状況が出現するに至った。金融機関にとっては巨額の不良債権の発生という深刻な事態を招くことになったのである。