2015年6月13日土曜日

経営者を軟禁する非正社員の労使交渉

こんな僻屈や怒りがたまっていくと、どういうことが起こるだろうか。既存の体制(政府、経営者、富裕層など)に対する反乱が一時的に激増する可能性がある。反乱は合法的手段に訴えるものと、非合法的なものに分かれる。まず、合法的なものから説明しよう。非正社員の労働組合の組織化がさらに進む。現時点においてでさえ、非正社員の労働組合や彼らを支援するNPOのような組織が目立っているが、さらに非正社員の組織化は進むと想定される。

これには二つの理由がある。第一に、非正社員を組織化したり、支援する組織が増えたりしていることや、そこに様々な戦略的意味を見出す組織が急増することである。第二に、非正社員から抜け出せない人が増えると、彼らの階級意識や連帯感のようなものが強くなり、これまでよりも組織化が容易になるからである。次の図を見ればわかるように、日本の労働組合組織率は減少し続けている。その理由については様々なことが言われているが、サービス業が増えたり、パート労働者が増えたりしたことが大きな要因の一つだ。

そこから考えても、派遣労働者やフリーターというのは最も組織化しにくいはずなのだが、階級として固定化されると状況が大きく変化する可能性がある。ここでは、様々な組合に分裂せずに統一的に組織された場合を想定して話を進めよう。非正社員はいろいろな業種にまたがっているが、実際には専業主婦のパート労働者が相当数いるため、産業別に組織化されたとしても、それほど大きな力を発揮するとは考えにくい。やはり、卓越したリーダーが現れて非正社員のナショナルセンター(労働組合の中央組織)のような労働組合を組織化できるかどうかがポイントになるが、仮にそうなった場合、ものすごい力を発揮する可能性がある。

彼らは、個別の経営者と様々な交渉を行うだろうが、場合によっては、今年3月にフランス南西部でソニーの工場が閉鎖された際、解雇条件を巡って経営者が軟禁されるという事件が起こったように、激しい労使交渉が展開される可能性もあるだろう。もちろん、非正社員労組の活動は個別の労使交渉にとどまらない。日本経団連などの経済団体に働きかけたり、労働者派遣法を有利に改正しようと政府に働きかけたり、連合など既存の労働組合との連携を模索したりするだろう。日本のような成熟した先進国の場合、ハードな賃上げなどよりも、政策決定過程に影響を与えて、非正社員に有利になるような政策を作らせる方が得策だからである。

場合によっては、彼らは国際舞台を活用するだろう。日本の労働組合は連合系、全労連(全国労働組合総連合)系を問わず、国際労働機関(ILO)へ様々な訴えを起こすことが多い。筆者は厚労省時代、ILOを二度担当したが、日本の労組はILOへ様々な訴えを起こすだけでなく、国際的案件となると些細なことでも日本のマスコミが取り上げるため、随分とこの種の仕事に苦労させられたものだが、ILO内部には様々な流派があるだけに、日本の非正社員の抗議は大きく取り上げられる可能性も高い。